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大阪地方裁判所 平成5年(わ)422号 判決

国籍

韓国

住居

大阪市城東区諏訪四丁目二二番二三号

会社役員

星本二郎こと 李一男

一九四七年九月一二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官熊谷保出席のうえ審理し、次の通り判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金三八〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪市北区堂島一丁目二番二一号の三協ビル三階において、「クラブカーメル」の名称で飲食業を営んでいた者であるが、自己の所得税を免れようと考え、

第一  昭和六三年分の総所得金額が六一四四万九〇六二円であった(別紙修正損益計算書(一)参照)のにかかわらず、ことさら過少な所得金額を記載した所得税確定申告書を作成して、その所得の一部を秘匿したうえ、平成元年三月一五日、大阪市北区南扇町七番一三号所在の所轄北税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が一五〇八万八九二一円で、これに対する所得税額が三四三万一二〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書(但し、所得税額については、社会保険料控除額の算入過誤により三三九万四八〇〇円と記載)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、昭和六三年分の正規の所得税額二六七一万五四〇〇円と右申告税額との差額二三二八万四二〇〇円(別紙所得税額計算書参照)を免れ、

第二  平成元年分の総所得金額が一億八三三八万〇六六〇円であった(別紙修正損益計算書(二)参照)のにかかわらず、前同様の行為によりその所得の一部を秘匿したうえ、平成二年三月一二日、前記所轄北税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総所得金額が二一六二万九八九四円で、これに対する所得税額が五八六万六三〇〇円である旨内容虚偽の所得税確定申告書(但し、所得税額については、社会保険料控除額の算入過誤により五八二万八三〇〇円と記載)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、平成元年分の正規の所得税額八六五四万五七〇〇円と右申告税額との差額八〇六七万九四〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れ、

第三  平成二年分の総所得金額が一億五七七二万九六一六円であった(別紙修正損益計算書(三)参照)のにかかわらず、前同様の行為によりその所得の一部を秘匿したうえ、平成三年三月一四日、前記所轄北税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が三四六一万〇四六〇円で、これに対する所得税額が一二四八万円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書(但し、所得税額については、社会保険料控除額の算入過誤により一二四三万円と記載)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、平成二年分の正規の所得税額七三八六万四五〇〇円と右申告税額との差額六一三八万四五〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れた。

(証拠の目標)

注・以下において、証拠中、末尾の括弧内に記載した漢数字は、証拠等関係カード(請求者等検察官)の証拠請求番号を示している。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の

(1)  検察官に対する供述調書(六六)

(2)  大蔵事務官に対する質問てん末書四通(六二ないし六五)

一  田中照子の

(1)  検察官に対する供述調書(六一)

(2)  大蔵事務官に対する質問てん末書二通(六〇、六八)

一  伊藤信之の大蔵事務官に対する質問てん末書(五九)

一  菅村末一の大蔵事務官に対する質問てん末書(七〇)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書三八通(記録第二五-一号(一一)、記録第二五-六号(一二)、記録第二五-七号(一三)、記録第二五-一〇号(一四)、記録第二五-一一号(一五)、記録第二五-一三号(一七)、記録第二五-一四号(一八)、記録第二五-一五号(一九)、記録第二五-一六号(二〇)、記録第二五-一八号(二二)、記録第二五-二〇号(二四)、記録第二五-二一号(一五)、記録第二五-二二号(二六)、記録第二五-二三号(二七)、記録第二五-二四号(二八)、記録第二五-二五号(二九)、記録第二五-二六号(三〇)、記録第二五-三六号(三二)、記録第二五-三七号(三三)、記録第二五-三八号(三四)、記録第二五-三九号(三五)、記録第二五-四〇号(三六)、記録第二五-四一号(三七)、記録第二五-四三号(三九)、記録第二五-四四号(四〇)、記録第二五-四五号(四一)、記録第二五-四六号(四二)、記録第二五-四八号(四四)、記録第二五-四九号(四五)、記録第二五-五〇号(四六)、記録第二五-五一号(四七)、記録第二五-五三号(四九)、記録第二五-五四号(五〇)、記録第二五-五五号(五一)、記録第二五-五六号(五二)、記録第二五-五七号(五三)、記録第二五-五八号(五四)、記録第二五-五九号(五五))

一  大蔵事務官作成の証明書(青色申告書提出の承認取消についてのもの)(七一)

一  検察事務官作成の捜査報告書(一〇)

判事第一の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書二通(記録第二五-四七号(四三)、記録第二五-一〇七号(五七))

一  大蔵事務官作成の証明書(平成元年三月一五日に申告した所得税申告書写についてのもの)(四)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六三年一月一日から同年一二月三一日までの期間のもの)(一)

判事第二及び第三の各事実について

一  上原潤子の大蔵事務官に対する質問てん末書(六九)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書二通(記録二五-一九号(二三)、記録第二五-六〇号(五六))

判事第二の事実について

一  大蔵事務官の査察官調査書(記録第二五-一〇八号)(五八)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成二年三月一二日に申告した所得税申告書写についてのもの)(六)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの期間のもの)(二)

判事第三の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(平成三年三月一四日に申告した所得税申告書写についてのもの)(八)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成二年一月一日から同年一二月三一日までの期間のもの)(三)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、各罪につき情状により同条二項を適用し、罰金はそれぞれその免れた所得税の額に相当する金額以下とし、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金三八〇〇万円に処し、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

本件は、高級クラブを経営していた被告人において、昭和六三年から平成二年までの三年度にわたり、合計一億六五三四万円余の所得税を脱税した事案であり、脱税額としても多額であるうえ、そのほ脱率も約八八・四パーセントと高率の事案である。そして、被告人は、不況時に備えるとともに、将来の事業拡大のための資金も蓄えたいとの動機で、脱税を企図し、税務申告を依頼していた納税組合担当者に売上資料の一部しか交付せず、かつ、さらに小額の申告税額にするように指示するなどして、虚偽過少申告をしたもので、動機面でしん酌すべき点はないばかりか、その手口、方法も悪質、大胆というべきで、納税義務に著しく違反する犯行であって、被告人の刑事責任はかなり重い。

しかし、他方、被告人は、本件犯行の摘発後、事実関係を認めて、修正申告し、本件はほ脱にかかる所得税については延滞税を除いて納付しており、右延滞税も現在分割納付中で、その他の地方税等もその多くは既に納付していること、さらに、現在、従前の個人事業を法人化し、記帳等についても税理士の指導も受けるなどして、その経理体制も改めていること、被告人において本件犯行を反省していることなど、被告人のために考慮すべき事情もある。

そこで、これら諸般の事情を考え、被告人を主文掲記の懲役及び罰金刑に処したうえ、懲役刑についてはその刑の執行を猶予することにする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田隆)

修正損益計算書(一)

〈省略〉

修正損益計算書(二)

〈省略〉

修正損益計算書(三)

〈省略〉

税額計算書

〈省略〉

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